倉山満 保守とネトウヨの近現代史 感想

倉山満 保守とネトウヨの近現代史 感想

 

『保守とネトウヨの近現代史』

このタイトルで倉山満先生が書くのだから面白くないはずがない!と読む前から断言できるような1冊。
読み進めると、予想通りであっという間に読み終えることができました。

〇ネトウヨとは何か?

ネット右翼、略してネトウヨ。
ネット右翼とはどのような人たちなのか。
ネトウヨと言いつつ、ネット空間にだけ存在するわけでもなく、実際に街宣活動などを行う人たちもいる。
「右翼」ですら「左翼」の対立概念ですし、「保守」も「民族派」など普通の人からみたら違いがわからないもので、そもそもをイデオロギーで定義することはできなくなっています。
現在、「安倍総理を応援する人」のことを「保守」と呼ぶようなことも起こっている中、その中でも「ネトウヨ」とは何なのか?
おそらく誰もきちんとした定義はできないであろう中、その実態を中にいた倉山先生だからこそ書けたともいえる作品です。

〇戦後保守は負けっぱなし

こちらの作品は自分が「保守」的傾向があると思っている人が読めば、そこそこにストレスがかかる本だと思われます。
前半は悲惨な言論状況の中、負けっぱなしの保守について。
後半は、それでもまだ言論において正当性を保っていた人が多かった時代に比べて、昨今の保守言論人のあまりの劣化ぶりに関して。
偉そうなことを言うなと言われるかもしれませんが、冷戦が激化していた1980年代を過ごした人間にとって、ソ連という大国が崩壊したことは、凄まじい衝撃でした。
しかしその時、言論人は、特に日本の政治家は何をしていたのか?
ソ連崩壊時、日本はバブルの真っただ中、今にアメリカを凌駕するのではないかというほどの経済大国だったにも関わらず、北方領土を取り返すために何か有効なことをしてきたのかと。
こちらの著書、序章が『自民党は「保守」ではない』からはじまるのですが、そのころの自民党のトップは親中派ばかり。
突破口になるかと思った藤岡信勝氏の起こした「新しい歴史許可書をつくる会」も結局は内部分裂を起こしてしまう。
あの時に出来なかったのに、なぜかちょっと前まで、元安倍総理がプーチンと会談などするたびに、「北方領土は返還されるのか?」などのニュースが出ることの意味がさっぱり分かりませんでした。

そして現在の保守言論界です。
素養とか知識以前の問題で、まず、言論に一貫性がないため人としての信用から疑うレベルです。
現在では書籍を読まなくてもインターネットで調べれば、誰がどのような発言をしていたかなどがある程度残っています。
現在、言論活動をしていた時は、自身が元安倍総理と近いことをたびたび口にし、元安倍総理に請われて参議院議員選挙に出て当選した、手から金粉が出て、握手をするだけで癌患者を治癒させることのできる人物ですが、2012年9月22日放送のたかじんノーマネーでは当時の自民党総裁選の際、このように語っていました。

「安倍さんは一度閣僚をやって、特にご自分の主張を外務大臣として貫けるかどうか、ちゃんと世界に示す。それからお腹痛いの克服したのを示して、ほんとに苦労してからもう一度総理にチャレンジすべきだと思うから、今回は石破さんの方がいいと思う。」

安倍氏が自民党総裁になってからは、この言葉はまるでなかったかのように、自身が何かあったらすぐに電話できる親しい関係であるかのように語り始めましたよね。

他にも消費増税に関する発言もコロコロ変わりすぎていて、彼が「増税反対」と言っても今一つ信用できないところがあります。
この彼が「新聞やテレビではなくインターネットにこそ真実がある」と豪語するネトウヨ達に支持されていることが全く理解できません。
支持者の方々には一言、「ggrks」と言ってあげたいです。

このような一貫性のない発言は、他の保守言論人に関してもごろごろ出てきます。
そもそも特別の専門家でもない、見識もない、韓国や中国の悪口を言えばうけるような風潮が続いてきました。
最近は、そのような動画がyoutubeの規格にそぐわないということで、削除されることもあり、少なくなっていて、ほっとしてきてはいます。

〇天皇陛下に弓引く者は保守か?

普通の人の認識では、「保守」と呼ばれる人は、天皇陛下や皇室を尊敬している人たちだと思います。
では実態はどのようなものでしょうか?
もちろん、口では天皇陛下に対しての尊敬を示し、デモや集会は「天皇陛下万歳」で締めたりします。
しかしながら、実際はこちらの著書でも書かれているように、上皇陛下の御譲位に関して、異を唱えたのは、いわゆる「保守」と呼ばれる人たちでした。
その理由も、「摂政で事足りる」、挙句の果ては「天皇陛下は戦後育ちでわがまま」「テレビで天皇があのような発言をするのは憲法違反」だの耳を疑うような言葉も多く聞かれました。
他にも現在の皇后陛下に対する批判や、皇太后陛下に対して「女性天皇・女性宮家をたくらむ主犯」だのの根拠のない発言など枚挙にいとまがありません。
彼らの多くに三島由紀夫の信奉者がいます。
こちらの著書でも三島に関しては書かれていますが、三島の天皇に関する発言には非常に不敬というか、まるで憎悪を含んでいるようなものも多く、私もその点は三島にまったく賛同できないのですが、三島の信奉者たちは、三島に倣って天皇に物申すことが愛国者だとでも思っているのでしょうか?
彼らの共通点の一つに、「やたらと戦前を美化する」ということもありますが、天皇に物申すって、戦前だろうと、今だろうと、命がけでやらなくてはならないことですよねと思います。

〇第6章 第6節『杉田水脈は「保守」業界では常識人』の真意

衆議院議員の杉田水脈氏は倉山満先生のちゃんねるくららにレギュラー番組を持っていたこともある、倉山先生の友人です。
その杉田氏に関しても当事者しか知りえない多くのことが書かれています。
まさか、この本の発売日にまたもや炎上騒ぎを起こすとは思ってもみませんでしたが、、、

「女性はうそをつける」自民 杉田水脈衆院議員 本人は発言否定 2020年9月25日 20時05分

非常に淡々と冷静に彼女に関して書かれています。
杉田水脈氏がどのような人物か、彼女の行動の真意がどこにあるのかを考えても本人にしかわかりえないところはあります。
しかしながら、こちらの第6章のタイトルは『天皇陛下に弓を引く「保守」言論人たち」です。
ここまで炎上騒動を起こす杉田水脈氏をそれでも倉山先生が「常識人」と評する理由。
そこに倉山先生が考える本当の「保守」の定義があるのではないかと思いました。

こちらの著書、特に後半は自身でもまざまざと体験してきたこともあり、懐かしさを感じ、反省しつつも面白く読みすすめることができました。
「ネトウヨ」が何かわからない人も、自身が「ネトウヨ」だという自覚がありつつ、「ネトウヨ」と呼ばれることに嫌悪感を抱く人も、とにかく手に取って読んでいただきたいです。