江崎道朗 日本外務省はソ連の対米工作を知っていた 感想

江崎道朗 日本外務省はソ連の対米工作を知っていた 感想

日本にはインテリジェンス機関がない、スパイ防止法もない、だから作らなければいけない。
最もな意見です。
しかしながら、インテリジェンス機関を作れば、スパイ防止法を作ればそれで足りるのでしょうか?
なぜ大日本帝国は滅びたのでしょうか?
こちらの江崎道朗先生の著書『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』を読めば日本のインテリジェンスが決して脆弱ではなかったことを思い知らされます。

こちらの著書で紹介される、若杉要という人物、そして、彼を中心として作成された日本版「ヴェノナ文書」とも言える『米国共産党調書』
これを読めば当時の米国共産党による対米工作の恐ろしさをまざまざと知らされるとともに、内務省警保局と外務省の調査能力が如何に優れていたかを知ることができます。

これほどまでの調査が行われていたにも関わらず、なぜ日本政府や軍部は情報戦を軽視し、敗北してしまったのか?

当時の日本の状況に関しては、同じく江崎道朗先生の『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』に詳しいですが、正しい言論が通らなくなったことによる、日本の自滅というのが一番近いような気がします。

江崎道朗 『 コミンテルンの謀略と日本の敗戦 』 感想
つい先日まで続いていた、新型コロナウイルスにおける緊急事態宣言ですが、政府は専門家の意見を聞いて動いたのかもしれません。
しかしながら、現在心配されるのは、新型コロナウイルスの死者以上に、現在ですら、リーマンショック以上、ともすれば世界恐慌以上の経済の悪化による失業者の増加、生活苦やそれによる人心の乱れです。

こちらの著書でも詳しく書かれている、マスコミや芸能界への乗っ取り工作、宗教団体を使った反日宣伝など、コミンテルンは多くの謀略を仕掛けていました。
工作が行われていることを知っていれば、それを疑い、警戒することは出来ます。
しかしながら、経済苦から引き起こされる社会不安は何かに警戒していれば取り除くことができるようなものではありません。
正常なら惑わされることはなくても、このような不安な状況でこそ工作員に付け込まれる隙を与えてしまうことになってしまいます。
コミンテルンの亡霊たちはこれを見て高笑いしているのではないでしょうか。

本来、自粛要請をするのなら、そのために十分な補償をすべきだったのに、不十分な額をしかも後手後手にしてしまっているために、経営をあきらめてしまっている事業者が多く出てしまっている状況です。
今後、どこまで政府が動くのか、景気を回復することができるのか。
政府にだけ頼るのかと言われるかもしれませんが、今回はあまりにも多くの国民に試練を与える結果になってしまっています。

戦前のアメリカも日本も共産党や共産主義を侮っていたわけではありません。
日本も「治安維持法」を制定して共産主義者を取り締まっていました。
しかしながら、正しく怖れていたのでしょうか?
共産主義を学んでいただけで非国民とののしるような言論弾圧をするような状況で正しい判断が行なわれるはずもありません。
そもそも敵の思想を知らずして、如何にして敵から自分の国を守るのでしょうか。
現在はその戦前の言論状況を全く笑えない状況です。
先日、検察庁法改正案に多くの著名人が反対のツイートをしたことが大きな話題になりましたが、そのツイートをしただけで、彼らをサヨクだの反日だののレッテルをつけた人達は一体何を見て、そのようなことを言っているのでしょうか。

どれほど有能な調査員がいても、インテリジェンス機関があっても、専門家がついていても、それを受けて政府が正しい判断をしなければ、国を滅ぼすことになります。

それを考えさせてくれる良書です。
是非手にとって読んで頂けることをオススメします。