よしながふみ きのう何食べた? 感想

 写真が悪いのか、本人の料理の腕が微妙か?いまいち美味しそうに見えませんが、最新刊の15巻収録のジャムサンドクッキーです。我が家のオーブンだともう少し高めの温度にしたほうが良かったかな?外はさっくり中はしっとり。中のマーマレードとラムレーズンでリッチな味わいです。

 本作は最近、西島秀俊・内野聖陽主演でドラマ化して話題になっていますね。富山ではやっていないので見れていません。とても残念です。

 弁護士の筧史朗・シロさん美容師の矢吹賢二ことケンジ。二人の同居生活や日々の出来事がシロさんの作るご飯を中心に描かれるます。主人公がゲイカップルと言ってもラブシーンは全くなく、二人の淡々とした日常が描かれます。

 よしながふみ氏の作品は映画化・ドラマ化した『大奥』も傑作ですが、特に好きなのは『西洋骨董洋菓子店』『フラワー・オブ・ライフ』です。共通するのが、出てくる食べ物が本当に美味しそう。そして、時間の経過を感じられることです。

『西洋骨董洋菓子店』は、3人の主人公の少年時代のエピソードも含みますが、実際の時間の経過は数年(2年ほど?)、『フラワー・オブ・ライフ』は白血病治療のため1年1カ月遅れて入学した春太郎が高校2年生に進級するまで。短い間ですが、登場人物の心境の変化、成長、人間関係の変遷などが描かれます。

『きのう何食べた』も、長期連載にありがちな、所謂「サザエさん現象」が起こるでもなく、若くてハンサムなシロさんは40代から50歳になってもやっぱり若々しいけど、誕生日に50本の薔薇を友人のワタルくんことジルベール(笑)に送られて激怒したり、ケンジは薄毛が気になって、ちょっと長めの髪から短髪にして金色に染めたりします。

 二人を取り巻く人達もきちんと描かれています。

 シロさんの母親は息子がゲイであることにショックを受けすぎて新興宗教にはまってしまった過去があります。現実を受け入れようとしつつ完全に受け入れられない、でもケンジにも気を使ったりする。この辺が非常にリアルだと思います。

 シロさんの料理仲間の佳代子さん、しっかりものの彼女の家族は以外にちゃらんぽらんなのですが、お気楽に彼氏と同棲生活を送っていた娘のミチルは妊娠を機に彼氏と結婚。生まれた子供の名前をシロさんからもらい、その子は最新刊では小学校に入学する年齢になっています。自然に家族と共に過ごすシロさんを「親戚の叔父さん」と勘違いしてたりして(笑)。

 時間を感じさせるのは登場人物の年齢の経過だけではありません。シロさんとケンジ、二人の関係も時が経つとともに少しずつ変わっていきます。

 弁護士という職業柄か、ゲイだとカミングアウトしていないシロさん。物語の最初の頃は、自分との生活を職場で話してしまうケンジを怒ったりしていましたが、自分の好きな人や家族のことをただ自慢したいケンジの想いも理解し、好きな人と外でデートしたい!誕生日は真っ先に祝いたい!というケンジの乙女心を気遣えるようになります。

 ケンジもあまり後先考えない性格だったのが、シロさんに合わせて倹約を心がけた、シロさんを感動させるまでのお買い物ができるようになったり、たまに作る料理も以前はただただ美味しいものを食べさせたいという気持ちが先行していたのに、味のバランスを考えられるようになり手際も良くなります。

 二人の関係もとても素敵です。本当はクールで渋めの男性が好みのシロさんにとって、ケンジは全く好きなタイプではありませんでした。しかし身勝手なタイプの男性とばかり付き合ってきたシロさんにとって、喧嘩をしても、わざわざ口に出さずとも仲直りするきっかけを作ってくれるケンジは得難い存在で、さまざまな節目のたびに、ケンジをもっと大切にしなければとかみしめます。

 ケンジにとってシロさんは、実は夢に見た理想の相手で一目惚れだったことが後に明らかになります。それはシロさんも知らなかったことでかなりの笑えるエピソードなのですが、読者には「あ、だからケンジの携帯の着信音って”XYZ”で呼び出されるあの人のアニメのエンディングソングなのね!」とピンとくるものがあってとても楽しいです。

 こちらで紹介されるお料理は、イベントでない限り、本当に普段の食事です。シロさんは倹約化なので、食事を月の予算で抑えることに本当に腐心しています。とはいっても、シロさんには非常にこだわりがあり、「甘い」「酸っぱい」「しょっぱい」の味のバランスや、みそ味のおかずを作ったら、汁ものにみそ汁は作らないなど、普通の家庭料理ではそこまでこだわらないよ…と言ったもの。参考にはなりますが、結構ハードルが高かったりします。

 シロさんはとっても手際が良く、冷やして食べるもの、冷めても美味しいものを先に作り、次の手順まで時間が空いたときは、鍋やグリルを洗ったり。次の日に食べても美味しいもの、冷凍OKなもの、余った材料で次の日のご飯を作ったりととにかく実用的なのが嬉しいです。

 主に先に帰宅するシロさんが料理をする場面が出てくるので、家事をシロさん全般をやっているかのように見えますが、二人一緒の休みの日には、シロさんが料理をしている間、ケンジが掃除機をかけたり、普段の生活は、主にシロさんが食事を作る、ケンジは掃除などの家事をすると分担して家事をしている様子が伺えます。お互いに出来ること、得意なことを分担しているところが本当に良い関係だなと思います。

 冒頭のジャムサンドクッキーですが、こちらはケンジの同僚の美容師のタブチくんの彼女・千波さんが、ストーカー被害の相談にのってくれたシロさんとケンジへの御礼に作ったものです。

 ここからストーリーのネタバレが多くなるのでご注意を。

 タブチくんはゴシップ好きでチャラ男っぽくて常に彼女のいるタイプ。そんな彼のしっかり者で手際はよいのに美味しくないご飯しか作れない彼女の千波さん。前の日の残った材料で夕飯を作ろうと千波さんは考えていたのに、カルボナーラを食べたくて仕方がなかったタブチくんは卵の白身が残ってしまってもお構いなしに、ちゃっちゃと美味しいカルボナーラを作ってしまいます。それが理由でいったん別れてしまった二人ですが、その後あっさりとよりを戻します。

 千波さんは自分の作るご飯が美味しくないので嫌われたと思っていたのです。タブチくんは彼女がご飯を作ってくれるのは善意からなので全くそのことは気にしていませんでした。でもやっぱり美味しいものを作ってタブチくんに喜んで欲しい千波さん。そこでケンジが手際のよい千波さんなら、レシピ通りに作るお菓子なら上手に出来るのではないかと提案します。タブチくんが彼女に作ってとおねだりしたのはフィナンシェでした。お菓子作りなどしたことのない千波さんは躊躇しますが、レシピ通りに作ると本当に美味しいものが出来て感動します。

 ここでなぜフィナンシェをタブチくんが選んだのか。フィナンシェは卵を使いますが、白身のみです。二人が別れてしまったきっかけが、黄身だけ使うカルボナーラでした。白身だけを使ってフィナンシェを作り、夕飯にカルボナーラを食べる。そして夜に作ったフィナンシェは、翌日にはしっとりしてより美味しくなっている。料理のエピソードに二人の関係性を絡めて語る。本当によしながさんは巧みなストーリーテラーだと感服させられます。

 冒頭のジャムサンドクッキー。お菓子作りには時間がかかります。タブチくんの元カノのストーカー被害にあった二人。以外にあっさり解決したのですが、その顛末にタブチくんは心を悩ませます。千波さんは先にあっさり結論だけを伝えるのですが、出来上がったお菓子を二人で食べながら、なぜそのように言葉をかけたのかを説明します。彼女は反射的に言葉が出るタイプではありません。そしてタブチくんはそのことがわかっていて、お菓子を作っている間にそのことをずっと考えていてくれた彼女の気持ちを察し、感謝します。

 このクッキーを作るとき、焼き色を付けるために卵を使うのですが、卵1個使うとどうしても余ってしまいます。余った卵で、自分のお弁当用に卵焼きを千波さんが作っているのがまた良いです。

 サブキャラクターの話が長くなってしまいました。しかしながらどの話をとっても本当に読ませるエピソードばかり、レシピも参考になりますし、とにかくおススメの作品です。