倉山満 バカよさらば – プロパガンダで読み解く日本の真実 感想

倉山満 バカよさらば – プロパガンダで読み解く日本の真実 感想

 

 倉山満先生によるプロパガンダの本。プロパガンダに関する本は『反日プロパガンダの近現代史』に続いて2冊目です。

〇プロパガンダとは

 プロパガンダとはいったいなんなのでしょうか。「悪宣伝」という言い方をしたり、対する形で「ホワイトプロパガンダ」という言葉を使ったりします。

 こちらの本で倉山先生は、『プロパガンダとは、「政治目的を達成するために自分の意思を他者に強要する宣伝手段」と定義しています。

 「四面楚歌」は世界最古のプロパガンダだった。戦国時代はプロパガンダ合戦のオンパレードで三河武士団はプロパガンダの名人だったなど目にうろこのエピソードで満載です。

 三河武士団のプロパガンダの意思は「徳川家の天下が続くように」というものでした。その結果、今までの宗主国だった今川家を徹底的に悪魔化しました。

 これは考えてみると当たり前のことですよね。現在、これをやっている国を私達は良く知っています。そう、韓国です。先の大戦の時、韓国は日本に併合されていました。日本はお人よしにも、当時の韓国を発展させ、韓国人は自分達が徴兵されないのは差別だと言わんばかりに、自ら志願して先の大戦を戦いました。しかしながら、日本は負けてしまいました。すると彼らは「私達は日本に植民地された!無理やり徴用されて強制労働をさせられ、女性は強制連行されて性奴隷にされた!」と始めたわけです。

 これに対して、「あれだけ発展させてやったのになぜ感謝しない!台湾は親日なのに!」という人もいますが、それは無理な話でしょう。台湾には台湾の都合があります。彼らは戦後、蒋介石が逃げてきて、散々ひどい目にあい、現在でも中国共産党の脅威の中にいます。韓国とはまた違った状況にいるのです。

 韓国は反日!だから日韓断交だ!という人もちょっと考え直してほしいです。日本と韓国が敵対して、喜ぶのはどこでしょうか?北朝鮮と中国ですよね。元々、慰安婦問題もそちらからのプロパガンダだという人も多くいました。朴槿恵大統領は反日だと批判されましたが、彼女が辞めさせられた後、現在の文在寅大統領は親北朝鮮です。韓国の反日、日本の嫌韓、すっかりやられていたのではというしかありません。

 〇朝日新聞とアメリカ民主党を味方に付けろ!

 こちらの著書でやはり語っておかなければならないのは、倉山満先生自身の「北朝鮮に拉致された中大生を救う会」でのエピソードでしょう。相手を動かすために必要な力は武力財力知力。しかしながら、当時の大学院生を中心にした「中大生を救う会」のメンバーには武力も財力もありませんでした。使える武器はただ一つ、知力、所謂プロパガンダだけ。救う会のメンバーは勝利条件を明確にし、「問題の周知徹底」という戦術目的を立てて行動します。今では考えも付きませんが、当時は「北朝鮮拉致疑惑」を口に出すだけで、右翼とレッテル貼りをされるような言論状況でした。

 そんな中彼らは、極力、「国家」や「主権」という言葉を使わず、「人権」をキャッチコピーに取り入れます。「人権」、この言葉は朝日新聞でも逆らえません。保守の人達の中には「共産党の反対が正解」とか「朝日新聞が言っていることだから間違い」という人がいます。そもそも国民全体での運動にしたいのならば、共産党や朝日新聞でも納得できることをしなければならないはずです。そして、日本全体を動かすのならば、アメリカも視野に入れなければなりません。反日で親中派の多い、アメリカ民主党をも味方につける、そのようなものが必要なのです。

〇騙されないためには

 本書はプロパガンダがどのようなものか、歴史的にどのようなプロパガンダが使われてきたかをただ語るだけのものではありません。プロパガンダに騙されないために、そして相手をコントロールするためにどのように情報を収集するかについても非常に詳しく書かれています。

 騙されないためのポイントとして、下の二つがあげられています。

1、情報の基礎を公開情報に置く。
2、客観条件を見抜くこと

 1は非常に大事なことです。陰謀論に騙されてしまう人が多いのは、多くの人の知らない、特定の人のみが持っている裏情報。それを手に入れるということが、「世の中の本当のことを知りたい」という知的好奇心をくすぐるからではないでしょうか。しかしながら、その裏情報は一体どこで得られたものなのか、検証に値するものなのか。それを見極めるためには公開情報と照らし合わせるしかありません。それが出来ないものは、可能性としてはありかもしれませんが、鵜呑みにするのは非常に危険です。そこで次に大事なのが2になります。

 どのようにして客観条件を見抜くのか。良い例として、先日、書評を書いた本のメインテーマ、プーチン幻想があります。

グレンコ・アンドリー プーチン幻想 「ロシアの正体」と日本の危機 感想

 プーチン幻想を抱く人は、プーチンは反中で、ロシアにとって最大の脅威は中国であるから、中国を抑止するために日本はロシアと協力することが出来ると言います。

 しかし客観条件から見てみると

①ロシアは経済的にもかなり中国に依存し、多くの中国人がロシアに移住し、中国企業がロシアの土地を大量に借りている。
②プーチンはメディアをコントロールし、自分が伝えたい情報、国民にそうと信じさせたい情報を流している。そのロシアメディアは中国をべた褒めしている。

 プーチンが反中で日本と協力できるというのは非常に怪しいものだということがわかります。

 この二つを頭に入れて置くだけでも、騙される確率はかなり少なくなると思います。インテリジェンスを磨くという点でも非常に有効です。

〇「歴史問題」で負けっぱなしの戦後日本

 大東亜戦争の敗戦後、占領軍として日本に入ったアメリカは様々な占領政策を実施しました。「戦犯裁判」「憲法の押し付け」。「大東亜戦争」という言葉が使えなくなったのも占領政策の一つです。GHQにいろいろやられたことは事実です。しかしながら、日本はなぜ占領が終わり、戦後70年以上たった今も、自主憲法はおろか一字一句、誤字を含めて憲法を改正できないのでしょうか。

 言論界の左傾化はともかく、政権与党は数年を除けば、保守政党と呼ばれる自民党が政権与党であり続けています。現在でもいろいろ問題はあってもあまりに野党が情けないため安倍政権を支持せざるを得ないような状況になっています。

 しかしながら、結局「歴史問題」を容認し続けていたのが、その政権与党の自民党であることを考えると絶望的な気持ちになります。それまでの友好国の台湾を切り捨て中華人民共和国と結び、日中共同声明で先の大戦を謝罪した田中角栄内閣、朝日新聞の「文部省が中国”侵略”を”進出”と書き改めさせた」との誤報ををきっかけに始まった教科書問題で、自ら謝った鈴木善幸内閣。そして、靖国問題を外交問題に発展させた中曽根康弘内閣。そして慰安婦問題で河野談話を発表した宮澤喜一内閣。

 私は昭和の時代を学生として過ごしましたが、そのころ韓国人従軍慰安婦の強制連行などと言った話はまるで聞いたことがありませんでした。大陸に渡った日本人女性、所謂「からゆきさん」のことは知っていましたが。それが降ってわいたかのように大騒ぎになったのが、1990年代、戦争が終わってもう40年以上も経ってからです。我が国の政治家は日本をどのような国にしたいのでしょうか。

 勿論、これを仕掛けている中国、韓国、北朝鮮などのプロパガンダはあります。しかしながら、南京大虐殺も慰安婦問題もプロパガンダとしてはあまりにお粗末です。教科書問題など、朝日新聞の誤報がきっかけです。結局、それを利用して動いている日本人自身をあぶりだす必要があるのです。

〇「右上」「右下」と「左上」「左下」

 倉山先生の著書でおなじみの四分類。初めての方に簡単に説明します。
(P166より)
・右上(本来の保守)日本国を愛する。ゆえに、日本政府を批判する。
・右下(単細胞保守)日本国を愛する。ゆえに、日本政府を批判しない。
・左上(体制側)  日本国を愛していない。しかし、日本政府の権力を握る。
・左下(パヨク)  日本国を愛していない。ゆえに、日本政府を批判する。

 結局現在の状況は、「左下」と「右下」が「左上」に操られて争い合い、「右上」の発言力が極めて小さいということです。

 最近のこの構図が一番わかりやすく見られたのが2015年に成立した平和安全法制の時だったでしょうか。

 この時の議論は「安倍内閣は集団的自衛権を行使しようとしている。内閣法制局が一貫して守ってきた憲法解釈の変更に賛成か、反対か」というものでした。

 「右下」の人達の言い分は憲法解釈を変更しろ!安倍総理ガンバレ!というもの。
 「左下」の人達の言い分は憲法解釈を変更するな!安倍は戦争をしたがっている!戦争法案反対!というもの。

 そもそもこの二者択一こそが「左上」たる内閣法制局のプロパガンダだったのですが、未だに多くの人は気づいていないのではないでしょうか。

 正解は、内閣法制局の憲法解釈はころころ変わっている。それどころか日本はずっと集団的自衛権を行使し続けている、なのです。

 このことは倉山先生の本でも繰り返し語られますが、集団的自衛権の憲法解釈の変遷に関しては、樋口恒治先生の著書、手に入りやすいものでは『「平和」という病~一国平和主義・集団的自衛権・憲法解釈の嘘を暴く~』に詳しいので是非ご一読ください。

 結局その程度の本当のことも主張できず、長い時間をかけて国会は紛糾し、「強行採決」のレッテルを貼られた状態で平和安全法制は可決されました。さて?あのバカ騒ぎからもう4年経とうとしていますが、日本は戦争ができる国になったのでしょうか?あの騒動は一体何だったのでしょうか?

〇勝ちたくない左下と右下

 最近、「左下」も「右下」も本当は勝ちたくないのではないか?と思っています。彼らの目的設定がはっきりわからないからかもしれません。

 「右下」の人達は、「左下」のことをバカにします。確かに、憲法9条さえあれば、軍隊を持たなくても国が守れると本気で信じている人がいたら愚かです。しかしでは「右下」は?憲法9条さえ変えれば日本は戦える国になるのでしょうか?そして我が国を守れるのでしょうか?

 大日本帝国には帝国陸海軍がありました。しかしながら戦争に負けました。負けるような戦い方をしたからです。これを言うと保守の人達は怒るのですが、事実です。そして負けた反省をしなければならないのに、「大東亜戦争は植民地解放のためにおこなわれた聖戦だった。植民地解放という目的が果たされたのだから、実は日本は戦争に勝ったといえる」などと明後日のことを言う人がいて困ります。他国を植民地解放して、自国が占領されてどうするのかと。

 そして、先にも書いた慰安婦問題です。この問題に取り組んでいる人達は「どんなに事実を広めようとしても、日本政府が『河野談話』で認めて、謝罪しているのでどうにもできない」と言っていました。それを、2014年、当時日本維新の会の議員たちを中心に見直しする動きが起こりました。そして、その結果「河野談話」が根拠もない上に、韓国側とのすり合わせで作られたものであることが明らかになりました。この時、この本の著者である倉山満先生を中心に、「河野談話」ではない、「河野談合」だ!とのキャッチコピーを拡散しました。これに普段、韓国を批判し、その悪口でご飯を食べている人達が何をしたか?無視、あるいは「河野談合」とは公共事業批判のためにやっていると明後日の方向で批判をして拡散を拒否しました。

 そうこうしているうちに、2017年の12月28日、安倍総理は日韓合意を結び、韓国に謝罪し、10億円を払うことになってしまいます。その時、「河野談合」を無視していた、とある「右下」団体は、休みに入って人のいない首相官邸前で「安倍は腹を切れ!」と大騒ぎしていました。一体何がしたいのでしょうか。

 結局、戦略どころか戦術もない。それどころか勝利条件も設定していない。だからこそ、問題が解決してしまうと、自らの存在意義すら見失ってしまうのでしょうね。「左上」のプロパガンダで踊ることしか出来なくなってしまうのは本当に悲惨です。このようなことにならないためにも、学ぶことは大事です。

 〇「どうなるか」ではなく「どうするか」

 倉山先生の著書に共通するメッセージです。今の日本には武力である軍隊はありません。自衛隊はありますが、軍隊とは非なる存在ですし、戦える組織にするための法整備が必要です。そして何より予算が足りません。

 財力に関して言えば、現在世界第三位の経済大国ではありますが、20年にも及ぶデフレで疲弊しています。何とかデフレ脱却に進もうとしているのに、消費増税でさらなる地獄を選ぼうとしています。安倍総理は内閣法制局のプロパガンダのみならず、財務省のプロパガンダと戦う気力も失っているかのようです。財務省のプロパガンダなど高校社会の教科書レベルでも見破れるものなのに、それほどに国民を愚かだと思っているのでしょうか?

 2013年10月の8%の増税を決めた時もそうです。結局、「強い経済を取り戻す」と言って選挙に勝ち、首相に返り咲いたのに、その自分の支持者を信じることが出来ずに、財務省に屈してしまった結果が今なのですから。

 もし、憲法を改正するなり、解釈を変えるなりして、日本が軍隊と等しい組織を持てるようになるとしても、それには時間もお金もかかります。その為にはせめて経済を立て直し、財力で周辺諸国にいうことを聞かせられるようになることが先決なのではないでしょうか。

 そして、知力です。これは政治家や国の教育機関に任せていてもどうにもなりません。今のままでは到底「歴史問題」で勝つことは出来ません。私達一人一人が賢くなって、「左上」や外国のプロパガンダに騙されないようにするしかないでしょう。そして三河武士団のように耐え抜き、勝った後で、「負けたふりをしていただけだ」と言えば良いのです。

 賢くなるには良書を読みましょう。お薦めです! 

参考文献