倉山満 2時間でわかる政治経済のルール 感想

 『2時間でわかる政治経済のルール』というタイトルにたがわず、サクサクと軽快に読み進められる良書。だからと言って内容が薄いわけではありません。これほどの内容をコンパクトにまとめられる倉山先生の技量にいつも感服させられます。

 この本がなぜ、他の政治学者や経済学者の書くものとは一味も二味も違うのか。それは倉山先生が憲政史家の名の通り、憲法、政治、歴史を熟知しているからです。政治や経済にスポーツのような明快なルールはありません。そのルール(法則)を見出すには歴史を知ることが重要です。こつこつと積み上げてきたもの、それを読み解くための努力。倉山先生の著書を読むといつもその積み上げてきたものに圧倒されます。

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 話は変わりますが、『昴』というバレエ漫画はご存知ですか?

 こちらは少年チャンピオンで『シャカリキ!』という自転車競技を題材にし、人気を博した曽田正人氏が、青年誌の「ビッグコミックスピリッツ」で連載していたバレエ漫画です。

 驚異的な才能、破天荒な性格、主人公の少女・昴も非常に魅力的な人物なのですが、私が一番印象に残ったのは彼女のライバル、出会ったときにはライバルというのもおこがましい、バレエ界の頂点に立つプリシラ・ロバーツです。

 プリシラは毎晩、バレエの基本中の基本の足のポジション、それを2時間、心から楽しんでやっているのです。

 基本がきちんと出来ていなければ何も始められない。そしてそれが大事だからやっているのではなく、心から楽しんでいる。

 そんなプリシラにヒロインの昴は圧倒されます。

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  肝心の本書の内容です。

 『第一章 日本の政治はカレンダーで決まる』

 今年、日本の政治で何が起こるのか。去年どころか数年前には決まっている事があります。4月の統一地方選挙や7月の参議議員選挙、そして10月の消費増税などです。

 では一部の保守派の掲げる「憲法改正」。これが政治カレンダーのどこに組み込む余地があるのか。やるとしたらどのタイミングなのか。そもそも増税をやる前提で参議院選挙、それに憲法改正などを掲げて安倍政権は勝つつもりがあるのかなど。

 政治に期待をするなとは言いません。しかしながら、「4月に国民投票で憲法改正だー!」などとあり得ないことを叫んで気持ちよくなっていても何も始まりません。現実を見据え、ルールを理解し、やってはいけないことをする政治家は叱咤し、国民にとって有益な政治家を応援する。政治家を選ぶのは我々国民なのですから。

 『第二章 日本の運命は国際情勢で決まる』

 坂本龍馬と勝海舟の有名のエピソード(もしかして勝のほら?)。「イギリスという国があって、ロシアという国がある。そして、日本がここにある」という話はまさに地政学の話で、揺るがしがたい現実です。同じように韓国が非常に日本と近い位置にあること。どんなに一部の保守派の人達が嫌だと言っても、日本が引っ越すことも、韓国に転居していただくことも出来ません。『日韓断交』など非現実的ですし、朝鮮半島で何かが起きれば日本に影響を及ばさずにはいられません。では我々はどうするのか?これは常に倉山満先生が問いかけているテーマですが、あらゆることを学ぶ過程で、大事なことは「どうなるか」ではなく「どうするか」を考えることです。その「どうするか」を考えるためには、基本的なこと、「イギリスという国があって、ロシアという国がある。そして、日本がここにある。それに加えて、韓国、北朝鮮という隣国があり、海を隔ててアメリカという国がある。」それらの国や他の諸国とどのように付き合っていくことが日本の国益につながるのか。その為には何を学び、どうすれば良いのかを考えることなのです。 

 他にも『日本の総理大臣は参議院で決まる』『アメリカ大統領は世界最弱の権力者』など、倉山先生の本を初めて読む人には目から鱗の、しかしながら歴史を学べばまぎれもない事実が次々と書かれます。あまり政治に興味にない人などにとっても『小泉進次郎は総理大臣になれる?』など関心を持って読めるのではないでしょうか。こちらの『第五章 国民の未来は官僚が決めている』を読めば、単にイケメンで世襲議員だから人気があるのだと思われている進次郎氏が着実に足元を固めていること。「自民党をぶっ潰す!」と言って人気を博した父・純一郎こそが派閥政治家だったということに驚かされることでしょう。

 さて、「ルール(法則)」と真逆のもの、それは陰謀論ではないでしょうか。

 「ユダヤ」、「国際金融資本」、「ディープステート」、「亡国最終兵器TPP」など世の中には多くの陰謀論が溢れています。なぜ多くの人はそのようなものに飛びつくのでしょうか。

 それを唱える知識人を妄信しているからかもしれませんし、誰も知らない世界の秘密を知った気になるからかもしれません。しかし、それを唱える人に「ユダヤって誰?」と聞いたらまともに答えられるのでしょうか?

 「TPPでアメリカは日本を支配する」と言っていた人で、アメリカがTPPから離脱したことをちゃんと説明出来た人がいるのでしょうか。

 言論人を見抜くための一つの方法があります。それこそ歴史です。その人物の発言が一貫しているかを検証すれば良いのです。

 ルール(法則)を見出すには時間がかかります。それはバレエのポジションを2時間とり続けるような地味ですが、大変な作業です。

 私は倉山塾生です。先生の名に恥じぬように、コツコツと本を読み、アウトプットして、仲間たちと勉強会を続けています。勉強会に参加出来ずとも、ある大臣の年表を作るため、書籍、ネットからデータを収集している友人もいます。日々の首相動静などを念入りに読みこんでいる人もいます。ただ続けるという地味で時には苦痛を伴います。でもそれを続けられるのは、その結果としてルール(法則)を見出した時の喜びもあるからでしょうね。

 プリシラはとんでもない天才ですが、彼女のように基本をこつこつと続け、楽しむことは凡人の我々にも可能なのです。

 学ぶこととは何でしょうか?私は学ぶことは生きることだと思います。これからも学び続けるための力をこちらの著書から頂きました。

※こちらの記事は平成31年2月23日に書かれたものです。

プリシラのエピソードの掲載巻