倉山満 日本一やさしい天皇の講座 感想

NO IMAGE

 去年の8月8日、天皇陛下によるお言葉がありました。こちらは扶桑社から出された『保守の心得』『帝国憲法の真実』に続く保守シリーズ第三弾として予定されていたものが、今回のお言葉を受けて緊急出版することになったそうです。譲位に関する特例法案が先日衆議院を通過したばかりというまさに今読むべき本となっています。

 あの時の陛下のお言葉を受けて、陛下がどれほど国民を信頼しているのか、どれほど国民を思って日々祈り、務めてこられたのか。改めて胸の熱くなる思いがしたものです。このお言葉で陛下の御存在がどれほどありがたいものかを確認した方も多いのではないでしょうか。そして、改めて「天皇って何?」「皇室って何?」といった疑問を持ち、それを知るために何から学べばよいかわからず戸惑う方もいると思います。そういう方に是非この本を手に取っていただきたいと思います。

 「はじめに」で語られますが、この本は三つの疑問

 一、なぜ、天皇は必要なのか
 二、なぜ、皇室は一度も途切れることなく続いてきたのか
 三、そもそも天皇とは、そして皇室とはなんなのか

 こちらの答えを出すことを試みて書かれたものです。決して倉山先生の意見を押し付けるものではありません。しかしながら、答えを出すには知っておかなければならないことがあります。

 皇室を論じるための大原則は

 「新儀は不吉。だから先例を探す」

 世界最長の歴史を持つ日本、昨日と同じ明日が続くことが幸せといった価値観を持てるとても恵まれた国ですが、なぜそうなのかを知るには歴史を知ることが第一となります。

 古事記から連なる歴代天皇のエピソード。特に、武家の時代になってからは、一見武家社会に押しやられ、陰に隠れてしまったように見える歴代天皇が如何に知略を駆使し自らの権威を保ってきたか、そして時の権力者たちが自らの力を保持するために如何に天皇を利用して来たかが描かれます。

 歴代の天皇には無駄な公共事業をやめ、文化事業に励み次々と政治改革に取り組んだ嵯峨天皇、両統迭立の原因を作った後嵯峨天皇やその息子の後深草天皇、亀山天皇、そして南北朝の動乱の原因となった後醍醐天皇。

 名君もいれば世の中に混乱をもたらした天皇もいる。しかしながら、万世一系の皇室は公称2600年以上も続いている。なぜ誰も皇室を滅ぼさなかったのでしょうか、そして天皇になり替わる者がいなかったのでしょうか。

 倉山先生は著書の中で何度も「タマタマ」とそれを表現しています。いい加減なと思うかもしれませんが、そうではありません。何度もこの「タマタマ」が繰り返されるところが日本が日本である所以ではないでしょうか。読み進めて頂ければご理解いただけると思います。

 武家社会が終わり、明治に移ると、外国の植民地にされない、強い国になるための国づくりをするための改革「御一新」、後に「維新」が行われます。しかし先に述べた大原則「新儀は不吉」。新儀を嫌う朝廷で改革を進めるために新政府は「王政復古の大号令」を宣言します。

 新政府は「新儀」を神武創業の精神で乗り越えようと試みます。この時に行われた三つの新儀「一世一元の制」「皇室典範」「摂政」は現代にも大きく影響を及ぼしています。こちらに関しても、作られた背景やそれが持つ欠陥も含めて語られます。

 今回の御譲位の問題でもなぜ摂政が望ましくないのか、そしてにわかに浮上する女系天皇や女性天皇、女性宮家の話、そちらも先例に基づいて是か否かが語られます。

 特に皇室について語るには歴史を知ることが大事です。

 今、簡単に「女性尊重の時代だから女性天皇」と言う人は八方十代の女帝が未亡人か未婚だったことを分かって言っているのでしょうか。「そうしなければならないなど皇室典範にもどこの法律の条文にも書いてない!」というつもりでしょうか。条文で書かれていることが全てではない。あまりに当たり前なことは条文に書かないこと、条文に書かれていないことの中に非常に大切なことがあること、そして書かれていないからこそ簡単に変えられないということ。これは憲法や国際法の問題と同じことで、それについて日本の学校教育ではほぼ教わることがありません。倉山先生の様々な御著書では繰り返し書かれていることなのですが、当ブログでもいろいろ紹介しているので是非そちらも参照していただきたいと思います。

 激動の時代を越えて、日本は敗戦を経験し、憲法典を変えさせられるという悲劇に襲われました。「元首」から「象徴」へ。そのことで天皇という存在は変えられてしまったのでしょうか。もともと帝国憲法下の天皇も普段は政治には関与しない立憲君主でした。ではなぜ今回の陛下のお言葉で「天皇が憲法や法律を変えさせようとするのは憲法違反だ!」などと言う人達が現れたのでしょうか。それは憲法を変えさせたGHQすら想定していなかった、「天皇はロボットだ」とする日本人がいたこと。そして、それが「法の番人」と呼ばれる内閣法制局にまで浸透してしまったからです。しかしながら今回のお言葉を受けて、多くの国民が「陛下がおっしゃることならば」とそのお気持ちを受け入れました。そしてそれに応じるかのように阪田雅裕元内閣法制局長官も「陛下のお気持ちに沿った法整備がなされるべき」であり、「今回のお言葉を理由に政府が法案を提出しても憲法上問題はない」とインタビューで答えています。

 敗戦後、これでもかと自虐教育を強いられてきた日本人ですが、一番大切な我が国の国体とも言うべき皇室と国民の絆は切れていなかった。それが陛下のお言葉で確認されたと思います。そして戦後の憲法学を乗っ取った宮澤俊儀の呪いも今打ち破られようとしています。今回の御譲位が実現すればそれは光格上皇以来の二百年に一度の出来事となります。その大きな歴史の中で改めて天皇とは何か、皇室とは何か、そして今回の御譲位について考えるために必読の本です。

 ※こちらの記事は平成29年6月4日に書かれたものです