江崎道朗 『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』感想

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 いよいよ残すところあとわずかとなってきました。果たして大統領になるのはドナルド・トランプか?ヒラリー・クリントンか?

 いくら考えても日本国民である我々には選挙権があるわけでもなく、その結果はアメリカ国民の意思を受け入れるしかありません。それではこの大統領選のことにあれこれ考えを巡らすのは全く無駄なのか?そんなはずはありません。悲しいことに現在の日本はアメリカに自らの国の安全保障を委ねている状態、誰が大統領になるかは日本にとって大問題です。

 こちらの本は誤解している方もいらっしゃるようですが、トランプ礼賛本ではありません。彼が大統領候補として現れた時は、誰もがトンデモ候補のように扱っていました。今でも日本のマスコミが扱うのは彼の過激な発言やスキャンダルなど。今朝見た日本の世論調査では「トランプが大統領としてふさわしい」と答えた人は、一桁、対する「ヒラリーがふさわしい」と答えた人は70%台でした。しかしアメリカでは一時はヒラリー優勢と言われていたのに、現在はトランプがかなり追い上げている。このことは日本のマスコミ報道だけ追っていても絶対にわかりません。それを江崎先生はトランプの主張や現在のアメリカの状況、戦後アメリカの政治史などからわかりやすく解説します。そこから私達の全く知らなかったアメリカが見えてきます。

 例えば、日本のマスコミはトランプの「メキシコとの国境に壁を建設する」などの過激な発言は取り上げます。しかし、なぜそのような発言が出てくるかの背景を掘り下げている番組はあまり見ません。トランプの言っていることは「移民がいけないのではなく、不法移民がいけない」という極々当たり前のことです。そして、なぜ彼がそういうのか、そしてその彼の主張が熱狂的に受け入れられるのかということの背景に「サンクチュアリ・シティ」の存在があります。

 サンフランシスコに象徴される実質的に連邦法が適用されない都市があり、不法入国者がそこに逃げ込めば、「人権」の名のもとに連邦法を犯してもそれが適用されず滞在することが出来るばかりか運転免許証も与えられるとのことです。それだけでも驚くべきことですが、その不法移民を合法化するための法律を共和党までが準備しているのです。

 日本でも外国籍の人の生活保護などが問題になっていますが、普通にその国に生まれ育って、真面目に働き税金を払っている人にとって、不法に入国し、税金も払わずに生活保護をもらう人達のことをどう思うでしょうか。しかもそれは自分たちが払った税金で賄われているのです。そんなごく当たり前の国民の気持ちを代弁してくれる。現在のトランプ旋風はそこから来ているのではないでしょうか。

 私の今書いた薄っぺらい感想などは誰でも想像できることなのでさておき、大統領がトランプではなくヒラリーになったらもうこの本を読む価値はないのか?全くそんなことはありません。この本の主題は先ほども言ったように、トランプ礼賛ではありませんし、ましてやトランプが大統領になったらどうなるかといった予測でもありません。この本は、マスコミが報じないトランプを通じて、マスコミが報じない「もう一つのアメリカ」を語る本だからです。先日UPした「倉山満 『大間違いのアメリカ合衆国』感想」でも倉山先生が訴えていることですが、大統領がトランプになろうがヒラリーになろうが、大事なことは、「どうなるか」ではなく我々日本人が「どうするか」だからです。

 この読みやすい200ページほどの本に、今まで知らなかったアメリカが描かれています。そして、私達が知らなかった背筋が寒くなるような日本の現実も。自国を自らの意思で守れない。これが主権国家の姿なのでしょうか。しかしながら、我が国を守るために我々がどうすればいいかの様々な示唆もあります。日本を愛する全ての人に是非読んでいただきたい本です。

 ※こちらの記事は平成28年11月7日に書かれたものです。