倉山満 『大間違いのアメリカ合衆国』感想

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 久しぶりの倉山先生の本の感想です。アメリカに関する本は『嘘だらけの日米近現代史』に続いて2冊目。なんとも楽しい内容になっています。

 なにが楽しいかというと第三章までの内容が倉山満少年の黒歴史と共に語られます(笑)。黒歴史ってこんなに赤裸々に語ってよいものなのでしょうか。宇野正美先生の本を読んでユダヤ陰謀論にはまり(すぐに真実に気付くのですが)、小説吉田学校を読んで世の中の真実を知ったつもりになった満少年。アメリカについて語った本なのですが、倉山先生の話だけでも面白いです。ひたすら退屈な毎日を送っていた少年が、人生の目標を見つけるまでのストーリーは若い人に読ませたいくらいです。ちなみに中央大学の辞達学会に入ろうと決意した理由自体も黒歴史という(笑)。

 しかし、倉山満少年を本当に笑える人がどれだけいるのでしょうか。いまだに怪しげなユダヤ陰謀論、アメリカ陰謀論を語る人は後を絶ちません。なぜこのようなものが流行るのか。その理由を倉山先生はこのように分析します。

 第一に受け手の側が単純にモノを知らないこと、第二に、受け手の側のマスコミ不信により真実を追い求めた結果、欠けている部分をファンタジーで盛り上げてしまうこと、第三に、発信側のテクニックのうまさ。それに加えて、なにがなんでも日本は弱くて小さくて、闇の巨大な存在に支配されていたがる心性ではないかと。国際グローバル資本の支配について語る人がいますが、日本の財閥は皆国際グローバル資本。それにもかかわらず彼らは、岩崎弥太郎が世界の支配者とは言わないですよね。なぜ、そこまで日本は弱い存在で、アメリカが巨大だと思いこんでいるのでしょうか。

 本当に知らないということは大きいと思います。『嘘だらけの日米近現代史』を読めばわかりますが、アメリカ側の一方的な歴史観を日本人が信じすぎていること。そして、日本人自身が自虐史観にとらわれていること。それに加えて、この本の中で何度も登場する評論家(最近の肩書きはコミンテルンハンター)の江崎道朗先生が繰り返し強調されていることですが、アメリカは一枚岩ではありません。ウイークリー・ジャパンポリシー派と呼ばれる日本が弱体化した方がアジアの平和にとって良いことだと思っている人たちもいますし、逆に強い日本と共にアジアの平和を守っていく方がいいと考えている人たちもいます。アメリカ陰謀論をいう人たちは、どうも日本が弱体化した方が良いと思っている人の方ばかり見すぎているのではないでしょうか。そして本来味方にすべき人たちまで敵に回しているのではないでしょうか。

 現在、まさにアメリカでは大統領選でトランプとヒラリーが戦っています。どちらが大統領になるのかはアメリカの国民が決断することですし、予想をしても仕方がないところではあります。そして、誰が大統領になってもどうなるかだけを考えていても仕方がありません。大切なのはどうなるかではなく、私達がどうするかです。世の中が「どうなっているのだ?」と迷い続けていた倉山満少年が、「どうするのだ?」という視点を持つようになってから本気で勉強を始めたように。

 「嘘だらけの日米近現代史」は「バカ、ヘタレ、でもやるときはやる」アメリカ、ムカつくけど同盟国である彼らに対する日本人のコンプレックスを解くための本でした。しかし、まだまだアメリカに対する私たちのコンプレックスは根強いものがあります。前回は歴史を通じて、今回の本では政治を通してそれに気づかせてくれます。文化については、「差別」というキーワードでかなり突っ込んだ言及がありますが、それは是非本書を読んでいただきたいと思います。第四章の主なアメリカの歴代大統領の通信簿は必見です。倉山本の読者ではおなじみですが、教科書ではやたらと持ち上げてるあの人はどんな評価?とても読みやすくおもしろい本ですので、是非手に取ってお読みください。

※こちらの記事は平成28年9月18日に書かれたものです。