倉山満 「帝国憲法物語」感想

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 大日本帝国憲法。この憲法がどのように成立したのか。それを歴史的背景と先人たちの思いがつづられた作品です。先人たちが、いかにこの日本を強い国、そして列強並の文明国にするための憲法が欲しかったのか。そして憲法の本質とは何か。それに気づかせてくれる本です。

 私たちは帝国憲法を「明治憲法」と教わり、その制定過程もあまりにも表面的な、間違ったことしか教わりません。滅びてしまったポーランドのようにならないために「政規典則(憲法)」が必要だと早くから悟っていた木戸孝允。列強国から日本を守るために三千人の敵に立ち向かい、そして勝利し、戦争に勝てる強い国を作るためにイギリスに留学して憲法を学ぶことを望んでいた高杉晋作。強靭な意志で徳川幕府を殲滅し新体制を作り上げた大久保利通。オーストリアのシュタイン博士に学び、憲法とは歴史、伝統、文化そのものだということを悟り、帝国憲法を作りあげた伊藤博文。伊藤とともに憲法を作るために古典の研究に没頭し、体を壊しても片時も書類を離さなかった井上毅。この先人たちの思いを知らずに、わが日本国の憲法について語ることが出来るのでしょうか。

 私たちが普段、憲法というものを語るとき、それは憲法典のことを指しているのではないでしょうか。日本国憲法の前文と103条の条文。憲法とはそれですべてではありません。憲法とは条文として書かれたものだけではなく、その国の歴史、伝統、文化を表したもの、そして憲法典とはその中で、最低限守ることを定めて条文にしたものです。そうすると日本国憲法とはなんなのでしょうか。占領軍が日本を弱体化するために作った憲法典。日本の歴史、伝統、文化を否定するために作られた憲法典をいつまで私たちは後生大事に国の最高法規として崇め奉らなければならないのでしょうか。

 憲法を語るとき、憲法とは何か、自分たちの国をどのような国にしたいのか、という合意が必要です。今まで、日本国憲法でやってきたのだから、何のために変える必要があるのか、という人がいます。そういう人たちの言い分も分からないではありません。その人たちにはチャンネルくららで、倉山先生が立ち読みする人がいたら、このページを読んでから買うかどうか決めてほしい、と言っているP208の「ある強姦魔の寓話」、こちらを読んで、考えていただきたいです。日本は自国の軍隊を持つか持たないか、という国家として当たり前のことですら、国民の合意がない国ですが、それ以前に、これを読んで悔しさや怒りを感じない人間とは憲法問題を語ることは難しいでしょう。

4月29日配信】倉山満の直球勝負 「昭和の日に憲法について考える」 上念司 倉山満【チャンネルくらら】

 この本の特筆すべきところは、憲法と国際法との関係を詳しく語っていることです。例えばもっとも確立された国際法と言われる三つ。

 1、世の中には戦時と平時が存在する。
 2、戦時には味方と敵と中立が存在する。
 3、戦時には戦闘員と非戦闘員が存在する。

 こちらに当てはめたとき日本国憲法はどのようなことになるでしょうか。日本国憲法第9条で日本は戦力の不保持を謳っています。先ほどの3の戦闘員と非戦闘員の区別は、軍隊の要件を定めるということです。軍隊を持たない国は戦争に巻き込まれないというのは本当でしょうか。戦争できない国とはすなわち戦争もしてもらえない国、戦争もしてもらえず踏みつぶされる国なのではないでしょうか。
 そして2ですが、アメリカが戦争をしているとき日本はどういう立場なのでしょうか。軍隊を持っていないから中立?アメリカは日本の同盟国です。そして、日本はアメリカ軍に基地を提供し、物資やお金を提供しています。アメリカが戦争をしていたら、日本は戦闘行為に関わらなくても参戦しているのと同じなのです。アメリカと戦っている国にとっては敵国です。そして基地提供は国際法では集団的自衛権の行使です。それなのに、無理やり集団的自衛権は行使していないなどと強弁するということは、日本は国際法を無視する国、要は文明国ではないということになるのです。国際法とは慣習法であり、条文化されている、いないに関わらず、それを守らなければ文明国とはみなされないのです。当然、憲法を作る際には国際法に合致するように作られます。それを無視するということは、何度も言いますが、自分たちは文明国ではないと言っているのに等しいのです。本当にこんな憲法が「世界に誇る平和憲法」なのでしょうか。

 ちなみに戦争という言葉を使いましたが、現在戦争は根絶されています。今起こっている国同士の争いは戦争ではなく、紛争になります。こちらに関しては倉山先生の「歴史問題は解決しない」に詳しいです。こちらの感想も昔UPしていますが、名著ですので是非読んでいただきたいです。

倉山満 歴史問題は解決しない 感想

 現在、自民党を中心に憲法改正の論議がなされています。しかし、現在、改正のポイントとして挙げられている「緊急事態事項」、「環境権」、「財政規律」などの論議はあまりにお粗末です。「緊急事態事項」は法律の改正で十分、「環境権」と「財政規律」は憲法に書き込んでしまったら有害なものとしか思えません。そもそも先日、自民党が配布している小冊子を読む限り、自民党憲法調査会は憲法と刑法の区別もついていないのではないでしょうか。

ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?

 憲法について語るには、まず憲法とは何かを知ること。我が国の歴史、伝統、文化とは何かを考えること。私たちの先人の作った帝国憲法を学ぶことから始めるべきだと思います。

 ※こちらの記事は平成27年5月18日に書かれたものです。