倉山満 「真・戦争論 世界大戦と危険な半島」 感想

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 今年も出版ラッシュに入ってきました。またまた倉山先生の新刊です。4月にも5月にも新刊が控えています!

 こちらはチャンネルくららとKKベストセラーズのタイアップ企画第一弾!チャンネルくららの方では「みんなで学ぼう!バルカン半島」というタイトルで放送されています。

【12月6日配信】みんなで学ぼう!バルカン半島 season1 第1回「小村寿太郎が見たバルカン半島」倉山満 古谷経衡【チャンネルくらら】

 古谷経衡さんとの掛け合いもとても楽しい。しかも大変勉強になる番組です。

 動画は楽しいのですが、バルカン半島だけでもたくさんの国があるのに、それに大国の思惑も重なり、大変複雑になっています。それなので文章でじっくり読めるこの本は本当にうれしい。しかもやはり面白くて読みやすい作りになっています。

 毎回毎回、倉山先生の本は読みやすいとか、するする読めるとか、ぐいぐい読ませるとか書いていますが、なぜこんなに読みやすいのか。今回はその理由も合わせて語ってみようと思います。

 まず、第1章 日本人の知らないバルカン半島。旧ユーゴスラビアの国々とその周辺国、そしてユーゴスラビアの国々の宗教、民族、言語などについての説明があります。「ユーゴスラビア数え歌」とわかりやすい解説なのですが、こちらをぜひゆっくり地図を見ながら頭に入れていただきたいです。後の内容への理解がそれでだいぶ違ってくると思います。倉山先生の本ではおなじみのこの人達の行動の法則も書かれています。そして、ユーゴスラビアの略史がざっくりと語られるのですが、この「略史」や「通史」を「ざっくり」「わかりやすく」書けるところが倉山先生の素晴らしいところだと思います。詳しい歴史をそのまま書くこと以上に、わかりやすく通史を語るには大変な知識とそれに対する理解、そして大切な情報を取捨選択できる能力が必要です。そして、特に第2章からですが、その通史がバルカンだけのものでなく、その当時の日本や大国の歴史と絡めて語られます。これがバルカンについての知識がない私のようなものにも、どういった時代背景でそれが起こっていたかをイメージさせるのに大変役立っています。この第1章ですでにバルカン半島のすごさに絶句してしまいます。スターリン?ヒトラー?なにそれと言わんばかりです。

 次に第2章 幕末明治の日本とバルカン半島。まるでメンバー紹介でも行われているかのように、バルカンの各国の略史が語られます。比喩が秀逸なので、その国々の特徴が強烈にイメージできます。こんなにすごいのに“スーパーサイヤ人”モンテネグロからみたらセルビアはヘタレ?そして第6節から日本との関わり、幕末の日本人がいかにバルカンの動きから世界情勢を読んでいたのかが描かれ、当時の日本人が地球儀を見ながら外交をやっていたというのが良くわかります。今までなぜこのことが大きく取り上げられなかったのか不思議なほどです。

 第3章は日露戦争とバルカン半島。当時はまだ弱小国だった日本が大国の思惑で戦争に巻き込まれながらも、それを跳ね返すためにいかに知恵を使ったか。そしてそのヨーロッパの思惑にいかにバルカン半島が関わっていたのかを知ることが出来ます。日露戦争は賠償金もとれず、結果的に得るものがなかったかのように語られることがありますが、戦争目的から考えたら日本の大勝利であること。そして日清戦争後、ウィルヘルム2世の陰謀によって、三国干渉で受けた悔しさを、その後の協商で取り返し、日本だけが安全地帯にいるような状況を作り上げたということ。この章だけではありませんが、当時の日本人の偉大さを知るとともに、日本人であることが誇らしくなるようなエピソードにあふれています。

 第4章 人類の不幸!バルカン戦争と第一次世界大戦。これまでのエピソードで彼らのトンデモなさにはならされたように思っていたのに、さらに突き抜けるような破壊力を思い知らされます。第一次世界大戦の始まり、バルカンの小国が大国に引きずり回されているイメージで考えていましたが、実際は小国が大国を引っ掻き回しています。バルカンの小国一国を止めるのにも大国が全部まとまらないと止めることが出来ないのですから。しかも、レーニンの片腕にしてスターリンの宿敵の革命家・トロツキーが真人間に見えてしまうようなバルカンの人々の行動。そして「嘘だらけの日米近現代史」でも狂人として語られていたアメリカ元大統領ウッドロー・ウィルソン。彼の主張した「勝利なき平和」、「十四か条宣言」、「民族自決」は一見良いことのように語られることも多いですが、それが世界に大いなる混乱をもたらしたことが書かれています。倉山先生と一緒に「おいウィルソン!世界を返せ!」と叫びたくなってしまいました。

 これだけ複雑で濃い内容をあっという間に読ませるのですから、やはり倉山先生はすごいとしか言いようがありません。ふんだんに使われている図表も内容を簡単に時系列で理解するためにとても役立ちます。チャンネルくららの放送ではサブカルに詳しい古谷さんが聴き手だからか、それともいつものことか、少年漫画から少女漫画、本宮ひろ志まで読む私にはかなり笑える表現もたくさんあります。もちろん知らなくても十分楽しめます。

 ぜひこの本を読んで、平和と人権の大切さを学びましょう!

 ※こちらの記事は平成27年3月31日に書かれたものです。