上念司 「経済で読み解く大東亜戦争」 感想

NO IMAGE

 経済評論家、上念司先生の新刊です。上念先生は難しい経済のことをわかりやすく、面白く語れるだけではなく、実は歴史についてもかなり造詣が深い方ですので、今回の本はとても楽しみでした。そして期待以上の作品でした。

 なぜ日本があのような戦争をしてしまったのか、それがジオ・エコノミクス(地政経済学)によって検証されます。聞きなれない言葉かもしれませんが、ジオ・エコノミクスとは、経済を一つの手段として相手国をコントロールする戦略を研究する学問とのこと。歴史家ではなく経済評論家の上念先生ならではの視点で描かれる歴史は大変新鮮でした。

 序章の『「経済」がわかれば、「戦争」がわかる!』でまず、「経済」と「戦争」の関係、金本位制や貨幣経済、比較優位、植民地経営などの基本的な経済学についての解説があります。肝心なことは世界恐慌がデフレだったこと。第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレ時の子供が札束をブロックのようにして遊んでいる写真の印象が強烈なためか、その後の世界恐慌がデフレだったことを知らない人も多いようです。実は、恥ずかしながら私も上念先生のお話を聞くまで知りませんでした。それの原因となった大きな要因が金本位制。それによる世界的な不況と人心の乱れ。これこそがその後の戦争につながる大きな要因だったと上念先生は語ります。

 もちろん戦争に至った理由は経済だけではありません。このころ日本にもアメリカにもソ連のスパイが入り込み、暗躍しています。彼らはマスコミや政府に入り込み、戦争を煽ります。しかし、このプロパガンダになぜ人々は乗ってしまっていたのか。やはり経済的な困窮で人々は判断力を失ってしまったのではないか。それを思うとやはり正しい経済政策を行うことは本当に大切なのだと改めて思います。昨日UPした「嘘だらけの日露近現代史」の感想でも少し触れましたが、経済の問題は人の生き死ににかかわるほど心に重くのしかかります。

 この本の第三部で気になったことがあります。高橋是清蔵相は日本経済が完全に復活したと判断し、緊縮財政に切り替えようとしたのですが、それを不満に思う一部の過激な軍人たちがニ・ニ六事件を引き起こしました。現在、予算額が特別減らされているわけでないにもかかわらずやたらと「緊縮財政だ!」と叫び「これではデフレに戻ってしまう!」と不安を煽り「だから安倍内閣は倒閣だ!」と言っている人たちがいますが、似たようなものを感じるのは気のせいでしょうか。安倍首相以上に金融緩和に肯定的でデフレ脱却に熱心な首相は今までいなかったと思うのですが、なぜ彼らはそれで安倍内閣を倒閣せよと煽るのでしょう。しかも、次に誰が首相になるべきか決して口にしないのです。批判はいくらでもしてよいと思います。しかし、不安を煽るだけの対案のない批判は害の方が大きいのではないでしょうか。

 上念先生はこのころの日本人のことを「スパイが轢いたレールの上を破滅に向かって全力疾走するバカ」と大変厳しく表現しています。確かにいくらひかれたレールとは言え、それを選んだのはその当時の日本人です。しかし増税をすれば景気が悪くなることなどわかりきっていたのにやってしまった我々に当時の人々を笑えるでしょうか。間違った判断をしないためにはまず景気回復をして、安心して生活できる体制を作ることが大切だと思います。そのためにも「経済が最優先」という姿勢を崩さず安倍首相には頑張っていただきたいと思います。

※こちらの記事は平成27年3月10日に書かれたものです