倉山満 「嘘だらけの日露近現代史」 感想

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 倉山先生の4か月ぶりの新刊は帰ってきた嘘だらけシリーズ。前回の「嘘だらけの日韓近現代史」から1年3か月ぶりです。

 前回の3作は通史を紹介して、その誤りを正していくと手法でしたが、今回もそれを取り入れつつまた違った切り口で書かれています。今回は章ごとに登場人物紹介があるのですが、それがいちいち面白い。途中架空の人物が出てきたりするのですが、なるほどこの人のモデルってそうだったんだ、言われてみれば!と驚かされました。銀河英雄伝説は番外編も含めて全部読んでいたのですが知りませんでした。私が歴史を知らないだけなんでしょうけど。

 複雑に絡み合ったヨーロッパの主君たちの思惑、謀略、そしてコミンテルン。コミンテルンに関しては、最近ではいろんなところで明らかになってきているのに、学校や教科書で教わることはありません。私の学生の頃ならまだしも、ヴェノナ文書が公開された後でも教わらないのはそれを教えたらよっぽど都合の悪い人たちがいるのでしょうか。しかしこれだけ各国複雑に入り組んだ歴史をぐいぐい読ませます。これは倉山先生の一方だけによらない視点、日本史家だから日本側からしか見ないということではなく、日本側から、あるいはロシア側からといくつもの視点から出来事が描かれることで複雑でありながらもするすると頭に入っていくのです。こういったものが書けるまでにどれだけの知識をインプットし、そしてそれを形に出来るよう修練されたのかとひたすら敬服します。

 この嘘だらけシリーズでは各国の法則が紹介されているのですが、今回もなるほどと思わせるものばかり。その中のロシアの八大法則の最後の二つ、

 七、約束を破ったときこそ自己正当化する
 八、どうにもならなくなったらキレイごとでごまかす

 日本人のアイデンティティーにはそぐわないかもしれませんが、国際社会で生き抜くにはこのくらいの図太さが必要なのでしょうね。私たちは歴史を学ぶというのは本当のことを学ぶことで、本当の事さえ言っていれば皆わかってくれると思いがちですが、日ソ不可侵条約を破って北方領土を奪い、日本人をシベリアで強制労働させたソ連や、大量破壊兵器を使って民間人を大量虐殺したアメリカにそのようなものが通じると思っていること自体、どこまでお人よしなのかということですね。まさに、憎むべき敵に学べ、と言ったところです。

 子供の頃の私にとってソ連とは良くわからない怖い国でした。某少女漫画の影響でスパイが暗躍していて怖い政治家がいて、目的のためには非常な手段も辞さないと言ったイメージで見ていました。この本を読んで、やはりロシアは怖い国だなと思いました。この本の発売日直前に、プーチン大統領批判の急先鋒だった野党指導者ボリス・ネムツォフ氏が殺害されるという事件がありました。現在真相はまだ明らかになっていませんが、容疑者の一人が自爆死するということも起こっています。こういった事件の真実が明かされるのは早くても政権が交代した後のことなのでしょうね。歴史の検証が待たれるというところです。

 毎回、倉山先生の本は後書きが楽しみなのですが、今回は「今さらながらの自己紹介」となっています。簡潔ですが、倉山先生がなぜこういった活動をしているのか、これまで何をやってきたのかが書かれています。作家としてだけでなく、言論人として私が倉山先生を支持する理由がここに込められています。私も「自殺者が激減、特に経済苦を理由とした自殺者が減った」というニュースを見たとき、涙が出るほどうれしかったです。その件でブログも書きました。

経済的問題を苦にした男性の自殺が大幅減~景気回復と自殺対策~

 景気が回復しつつあるとはいえ、いまだ問題は山積みです。これから日本はどうなっていくのか。それを考える上で歴史を学ぶというのことは本当に大切です。その歴史を学ぶのにこんなにわかりやすく面白い本があるのは本当にありがたいことですね。ぜひこのシリーズ、日英、日独と続けていただきたいです。

 ※こちらの記事は平成27年3月9日に書かれたものです。