佐々木惣一は天皇退位論者か~松尾論文を読んでの考察~

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 この論文を読むことになったきっかけ。Twitterのタイムラインで「佐々木惣一は天皇退位論者。倉山満はそんな人を高評価してる。ファンは西部中野組の天皇退位を叩くのに、倉山さんの評価している人の天皇退位はスルーするのか」という趣旨のツイートが流れてきました。

 かの人物は最近、執拗に根拠の乏しい理由で倉山先生を叩いていて、私は以前フォローしていたのですが、余りに目障りになったのでフォローを外していました。しかし、私のフォローしている人にも彼女のフォロワーがいて、たまにタイムラインに流れてきます。
単なる根拠のない批判ならスルーしようかと思っていたのですが、学術論文を付けての批判。ならばとりあえずと論文を読んでみました。

敗戦前後の佐々木惣一–近衛文麿との関係を中心に

 まず全体を読んでみて結論に愕然としました。(以下『』内は論文からの引用)

 『国体維持を第一義とした近衛は、もし生きて巣鴨の獄中にあったとすれば、新憲法にどのような感想を抱いたか。また木戸と同様死刑を免れたとすれば、自らの戦争責任をよそに、皇位に固執し続ける天皇を眺めながら、どのような余生を送ったことであろうか。』

 皇位に固執し続ける天皇?いったいこの著者はどんな人なのでしょうか?

 松尾尊兌なる方の人物像wikipedhiaでは良くわからなかったのですが、インタビュー読んでなるほどと。

<インタビュー>3・1独立運動記念学会で訪韓した松尾尊兌氏 

「残念ながらも日本で過去に対する反省はほとんどない。問題は太平洋戦争の敗北後、天皇と天皇制が続いている点だ。戦争の最高責任者は天皇だが、天皇は戦犯裁判にかけられることもなかった。結局、戦争の最高責任者が自由の身になり、これは日本が悪いことをしなかったという認識に拡大した。今後はこうした行動に対する反省が出てくるよう期待する。それには日本人の認識が変わらねばならず、韓国との文化交流が活性化されねばならない。韓流のため、日本人が韓国の文化に関心を持ち始め、韓国の歴史と文化を新たに眺めようとする認識が日本国内に広がりつつある。韓流の広がりが、日本人が過去の過ちを反省する契機になればいいと思う」

 うーん。佐々木博士が天皇退位論者なのではなくて松尾氏が天皇退位論者なのではないでしょうか?

 でも学術論文はその人がどういう人物かではなく何が書かれているかが大事だと思い細かく読んでみました。

 佐々木博士が天皇退位論者なのではと思われる部分。

・p133より天皇退位、皇室典範問題について、佐々木と近衛が話し合ったという資料は発見されていないが、その可能性はあった著者は述べている。

・p134 6月25日に憲法改正案が衆議院に上程されると,佐々木は連日傍聴に出か けた。 貴族院では同じ6月25日,吉田首相の施政方針に関する質問の中憲法改正につき,「国家政治的基本性格」すなわち「天皇制度」を改憲により変更して差支えないかと質した。

・p134 新憲法には天皇無答責任の条文が欠如していることを指摘し、天皇の戦争責任に言及し、皇室典範に退位規定を設けることを暗に主張とある。

・p136 『近衛が要綱を、佐々木が草案をという役割分担も、相方了解した上のことであった。また両者の間には皇室典範を改正し、天皇の退位を促すという暗黙の了解もあった。』

 ここであげたもので
 p133の部分は資料が発見されていない、つまり著者の憶測の可能性もあるということですよね。

 P134の「天皇制度」を改憲により変更して差支えないかと質したとの部分は法律論の確認のようにも思えます。

 P134の天皇の戦争責任に言及し、皇室典範に退位規定を設けることを暗に主張したの部分ですが、p134~p135にある(第90回帝国議会貴族院議事速記録第25条)の佐々木博士の言葉を読み解くに、天皇に責任がないというのは誤解される。国家の政治にあたるものが責任がないということは一般的にはありえない。新憲法には天皇無答責任の条文がない。天皇陛下は戦争の結果においていろいろお考えになるであろうから、皇室典範で退位の規定を設けるべきではないかということ。要は新憲法では天皇無答責の条文がないことから、天皇が自ら退位できないのは法律上の不備だということではないか。

 P136の「両者の間には皇室典範を改正し、天皇の退位を促すという暗黙の了解もあった」というのも根拠のある資料の提示がない。

 これをもって佐々木博士が先帝陛下の戦争責任により退位させようとしていた人物だというには根拠が薄い気がしました。そしてこの論文中にもそれとは真逆の記述があります。

 ・p126 によると佐々木博士は摂政在任中の改憲を禁止した第七五条の再検討(改憲を可 としてよい)と憲法中に「憲法改正ノ手続ヲ以テスルモ国体ヲ変更スヘカラサルノ規定ヲ設 ク」の規定がないことを問題としていた。要は憲法の改正によって国体を変更されてしまう可能性があることを危惧していた(実際に天皇が統治者だったのに、主権在民になった)。

 ・p136 佐々木は万世一系の天皇が統治権を総攬するという国体を変更する必要はないと自説を展開している。

 そして現実として憲法改正案である佐々木草案では天皇に関する第1条から4条は帝国憲法からの変更はありません。佐々木博士は天皇による統治権も天皇の神聖不可侵性も変えるべきではないと考えていたということです。そしてこの論文の中でもいかに佐々木博士がご皇室を敬っていたのかが読み取れます。それなのに戦争責任を追及するために天皇退位を計っていた?

 どうにも論文に整合性を見いだせなかったので、倉山先生に質問してみました。倉山先生は「帝国憲法の真実」にも書かれているのですが、佐々木惣一博士の弟子筋にあたる先生方の研究会で憲法を学ばれたそうです。

 倉山先生によると、先ほどの佐々木博士の言葉通り、法律上は天皇は無答責のはずであるが、新憲法にはない。また、法律上無答責であっても、現実には(政治的に)無責任はありえない。天皇陛下が自らの意思で退位できないという規定は欠陥だということ。やはり法律論ですね。

 私のこの質問に対して他の方が、当時の仏教界では天皇陛下が出家すると言うことに関して、ありえないことと言う認識はなかったが、あくまで先帝陛下をお守りすることが目的であって、天皇責任論などには基づいていない、といったことも教えてくださいました。

 佐々木博士が単なる法律論や政治論ではなくどのようにお考えだったかは、倉山先生の「帝国憲法の真実」に書かれています。わかりやすく言うと次のようになります。

 もし日本国民の心が皇室からはなれ、憲法改定により国体を変革しようとしたとき、たとえ憲法典の条文と言えどもそれを押しとどめることは出来ない。
そしてそのときには日本が日本でなくなる。

 それがどういう意図であったのか、詳しくはぜひこちらの本を読んでいただきたいと思います。

 ちなみに、西部中野の天皇出家論とは、ちょっとこのブログに掲載したくないので割愛させてください。「西部邁 天皇出家」「中野剛志 天皇出家」でキーワード検索すれば出てきますので。

 どちらにしても松尾論文を読んだだけでも佐々木博士がいかにご皇室に敬意を持っているかが読み取れるのに、結論が乱暴な天皇退位論になっているのです。松尾氏の持論を権威づけるために佐々木博士を利用したのでは?

 それでこちらの論文を読んだ感想を、前出のツイッターアカウントにぶつけてみました。

 すると彼女(ネットなので性別が明らかではないのですが女性の口調ですので彼女と呼ぶ)倉山さん、和田さん(参議院議員の和田正宗さん)が佐々木さんについて述べているソースを募集してただけで、私の意見には用がないという。

 はい?あなた西部中野組の天皇退位は叩くけど倉山さんの評価してる人の天皇退位はスルーなんてことは無いよな、って言いましたけど、これ明らかに倉山先生の支持者への挑発ですよね。

 すると、上念さん、倉山さんが煽る相手に対しては同調して群がる皆様に宛てて空中に放った、ときました。ああ、あなたの2500人以上いるフォロワーという空気の中にね、その人が撃った弾が私にあたったんですよ。

 どちらにしても私と論争する気はなさそうでしたので、倉山先生の発言のソースと著書を紹介しました。ちょっと捨て台詞を吐いてしまいましたが。

 疑いを持つこと自体は悪いことではないし、検証は大いにすべきだと思います。でも彼女のやっていることは根拠のない言いがかりが多く、今回は学術論文を付けてもっともらしく批判しているように見えて、中を読んだら結局トンデモ左翼の作文だったわけで。これを持って天皇退位論者の佐々木博士を高く評価してる倉山先生は偽装保守ではないか、みたいな批判はおかしいでしょう、ということを私は言いたかったのですが、それは彼女の気に入る言葉ではなかったようです。要は彼女のやっていることはないことの証明、もしくは魔女狩りです。

 どうやっても結論は出ないことですので、飽きるまでやっていただければと思います。

 一言。撃たれる覚悟がないのなら撃ってくるな、と。

※こちらの記事は平成27年1月27日に書かれたものです。